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『ネクスト・デモクラシーの構想 よりよき社会のための政体へ』の解説 [提言]

『ネクスト・デモクラシーの構想 ―新たな民主政体へ』について    2023.5.24               

《著作の説明》

1. 著作の題名
『ネクスト・デモクラシーの構想 ―新たな民主政体へ 』

2. 目的:①現在の自由民主主義政体に代わるべき、新たな民主政体の思想とビジョンを示すこと。
②同時にそれが、よりよき社会・経済への変革を促す拠点にもなることを伝えていくこと。

3. 全体の構成
  (元の原稿の場合です。・・4月に構成の見直しを行いました。これは、1月段階の
   もので、このブログに掲載中の各章原稿と対応しています。)

第1部 歴史をふまえ、現状を見つめて、未来へ

まず、ハンナ・アレントの政体変革論・評議会制論を紹介し、次に国民国家の問題点
と自由民主主義政体の来歴を述べ、最後に「民主主義の危機・衰退」 の因果関係を論じ
ます。

第2部 ネクスト・デモクラシーの思想と構想

  政体の基礎となる政治思想を述べ、アレントの評議会思想を説明し、結合すべきロー
カル・デモクラシー、差異の政治(民族差別などの問題)、経済の 民主化などの諸側面
を論じていきます。

第3部 新しい民主政体のビジョン

 第2部の考察をもとにして作り上げた、あるべき民主政体の具体的なビジョ ンを提示
します。その政体の基本法となる憲法試案も書きました。最後に、新政体の基本的特徴
と歴史的意義を述べて、まとめとしました。

3. 各種のポイントの説明
  ① アレントの変革論との関係
   今回の著作は、ハンナ・アレントの変革論から出発するというスタイルをとりま
   した。それは、アレントの著作からヒントをもらい、評議会制を1つの軸にしよ
   うと思ったからですが、付け加えた部分も多いので、全体としてはだいぶ違った
   ものになっています。特にアレントは、政治は政治、社会・経済の問題は別の領
   域と峻別してしまうのですが、その点は大きく変えました。
  ② 評議会制を軸に・・と言う場合、その性格が一時的な革命の機関なのか、平時
   の政体なのかを明確にしておくべきですね。アレントの著作や発言は、その点が
   よく意識されていない感じです。私は平時の政体として書きました。
  ③ もう1つ大事な点は、平時の政体であっても、評議員になろうと立候補してく
   る人たちの質は現在の政党政治・地方自治とは大きく変わっていくだろうと予想
   されることです。保守も右翼も参加するでしょうけど、よりよき社会への変革に
   前向きな人々の割合が増え、その人たちがヘゲモニーを握れるだろうな、と。
  ④ 全体としてですが、このビジョンはすべて、民主化革命やそれに準ずるような
   政治的大変動の後に実現されるべきものとして考えたものであり、それらがもた
   らすであろう状況・政治的力関係の変化を前提にしています。

****************************************

《ビジョンの解説》 (「著作の説明」のつづきです。)
              
 1.この著作が目ざすもの
  1) 現在の自由民主主義政体に代わるべき、新たな民主政体の思想とビジョンを示す
    ことです。
  2) 同時に、それがよりよき社会・経済を作るための拠点にもなりうることを示すこ
    とです。

 2.ここに書いた2つの目標を1つにまとめてみると、新たな政体の基本的性格を表現
   するものになります。つまり・・
   「新たな政体は、よりよき社会・経済を作る機能をそなえた、真の民主主義を可能     にする政体である。」ということです。

 3.私は、このビジョンを形作っていく過程で、大きく分けて以下の4つの問い(4つ
  の中には枝分かれした各種の問いが含まれる)に答えようとしながら、考えを進めま
  した。なので、ビジョンの説明も、それぞれの問いにどう答えたかを軸にして整理す
  ると分かりやすくなると思います。以下では、その方針で説明していこうと思います。
   政体変革論ですから、問1への答が一番の中心となるので、そこはより詳しく説明
  していこうと思います。

  問1 よりよい民主主義にするためには、どのような民主政体にすべきか。
  問2 よりよい社会をつくる機能を持たせるためには、どのような仕組みを加えるべ
     きか。
  問3 よりよい経済をつくる機能を持たせるためには、どのような仕組みを加えるべ
     きか。
  問4 国家の観念を消滅させるためには、どうすべきか。政治の基本的な考え方(
     「主権の政治」概念を指す)をどのようなものに変えていくべきか。

[1] 問1への答
 私は、以下の4つの要素を組み合わせることによって、新たな民主政体の基本骨格を
作りました。
  ① 政体の中軸に、「評議会制」のシステムによる議員の選出制度を置くこと。
  ② 小さい政治・行政単位における民主政治の意義を重視する「ローカル・デモク
    ラシー」の考え方にもとづいて全体を組み立てること。
  ③ eデモクラシーを含めた、各種の「参加民主主義」的方法(市民の直接参加を
    可能にするもの)を地区・市・地方・中央の各レベルの政体に取り入れて、市
    民と政治の距離を近づけること。
  ④ これまでのデモクラシーに含まれる、いくつかの良い点(政権交代の制度、権
    力分立など)を継承すること。
 4つ目は、部分的なものにとどまるので、大きな柱は、①から③までの3つです。特
に①と③の組み合わせを最大の特徴とするデモクラシーであると言えます。なので、以
下では①と③について特に詳しく説明することにします。

5.「評議会制」とは何か。
  評議会については名前しか知らない人も多いと思うので、この説明から始めます。
 ハンナ・アレント自身が著書『革命について』の中で以下のように歴史にもとづく説
 明をしているので、その引用から始めます。(註:「ソヴィエト」というのは、もと
 もと、評議会のロシア語名でした。)
 
  「 ロシア(1917年)の場合は、労働者、農民、兵士の評議会、ハンガリー(195
   6年)の場合は非常に雑多な評議会というように、この二つの事例では、相互に
   まったく無関係に、いたるところで評議会あるいはソヴィエトが発生した。
    たとえばハンガリーの場合、あらゆる居住地域に出現した地域的な評議会、街
   頭における共同の闘争の中から成長してきたいわゆる革命評議会、ブタペストの
   カフェで生まれた作家や芸術家の評議会、大学における学生・青年評議会、工場
   の労働者評議会、軍隊の評議会、公務員の評議会等々があった。このような種々
   雑多な集団の中にそれぞれ評議会がつくられた結果、多かれ少なかれ偶然的であ
   った近接関係は、一つの政治制度に変わった。
    この自発的な発展の中でもっとも驚くべき局面は、この二つの例において、ロ
   シアの場合は数週間、ハンガリーの場合は数日もするとこれらのいちじるしく雑
   多な独立した機関が、地域的・地方的性格の上級評議会を形成しつつ、協力と統
   合の過程を促進しはじめ、ついにはこれらの地域的・地方的性格の上級評議会か
   ら全国を代表する会議の代議員を選挙するまでになったということである。
    北アメリカの植民地史における初期の契約や協合や同盟の場合と同じように、
   ここでも連邦の原理、すなわち別々の単位のあいだの連盟と同盟の原理が、活動
   それ自身の基本的条件から生まれたのであって、広い領土における共和政体の可
   能性にかんする理論的考察によって影響を受けたのでもなく、共通の敵の脅威を
   うけて結集したのでもないことがわかる。共通の目的は新しい政治体を創設する
   ことであり、新しいタイプの共和政体をつくることであった。(中略)いいかえ
   れば、評議会は、(基礎評議会や地方評議会の)活動し、意見を形成する能力の
   保持に気を配り、権力の可分性と、そのもっとも重要な帰結である、統治権力の
   必要不可欠な分散を発見せざるをえなかったのである。」
 最後の部分はわかりにくい書き方になっていますが、要するに、全国的な組織になっ
ても、もともとの分権の原理が維持されて、各部分が自由な活動を続けていたというこ
とを言っています。
 他には、どういうことを言っているでしょうか。
 最初の部分で言っているのは、単位となる評議会の発生のし方ですね。また、ハンガ
リーの場合、多様な集団の評議会があったことも紹介しています。中段では、それらが
自然に結合して、地域・地方・全国の評議会が形成されていったこと、および、各レベ
ルの評議会から上のレベルの評議員が選出されていったことを言っています。さらに、
その結合のし方が連合体の原理によるものであったこと、そのために、分権と自治の原
理が維持されていく性質のものであったことを述べています。
 もう1つ、ここには含まれていませんが、評議会は行政に関する機能も併せ持つもの
でした。これは、評議会の原初形態と言えるコミューンの場合を想起してもらえば、分
かりやすいと思います。例えば、パリ・コミューンはそれが存続した期間中、パリ市内
の秩序と行政活動、生活基盤を維持する役割も果たしていました。
 歴史的な「評議会」は以上のようなものですが、ここから評議会制の政体の特徴を抽
出すると、以下のようなことがあげられると思います。
  1) 職場や近隣地域の評議会から始まって、それらが結合した地方評議会、さらに
    地方評議会が結合した全国評議会へと、ピラミッド型に組み上げられていく政
    体であること。
  2) 中央集権ではなく、徹底した分権と自治の原理に立つ政体であること。
  3) 評議員の選出方法は、あるレベルの各評議会から代表が選ばれ、その上の評議
    会を形成するという形をとること。
  4) 政党の関与がない政治と選挙になること。
  5) 評議員たちは議決機関での活動と同時に、行政機関での活動もすること。
  6) 中央政府のメンバーは、全国の評議会において、その執行部として選ばれるこ
    と。

6. 評議会制の取り入れ方
 こういう特徴を持つ評議会制は、政党政治を脱却しつつ、民主政治の質を大きく変え
ていくために有効な手段であると考えたので、部分的に取り入れることにしました。そ
れにより、生活者市民のための政治、寡頭制的ではない政治を実現しやすくなります。
また、新たな政体がよりよき社会・経済をめざすものであることから、社会派的な市民
たちが立候補・当選することが増えるはずであり、評議会制の議員選出方法と相まって、
かれらのヘゲモニー(指導的な立場。主導権)が確立しやすくなります。
 しかし、新しい政体を永続する平時の機関として機能するものにするためには、無関
心層とか保守的な勢力とかさまざまな人々も包み込み、受け入れるような政治制度にす
る必要があります。そのためには、評議会制の選出方式だけではなく、要所、要所に普
通選挙制度(全住民が有権者)も入れていくべきだと考えました。
  1つ目は、政体の基礎となる市評議会を普通選挙方式で選ぶことです。
  2つ目は、地方評議員への立候補の資格を拡大することです。
  3つ目は、中央政府メンバーの選び方を評議会制と普通選挙制の両面を合わせ持つ
      ものにすることです。具体的には第2部の8章と第3部の3章を読んでく
      ださい。
 3つ目の改変を加えたもう1つの理由は、有権者総体の意思によって政権交代がなされ
るのは、民主政治にとって必要不可欠なことであると思ったからです。政党がなくなる
中でどのように政権交代を可能にするのかが問題の焦点になりますが、これについての
適切な答を見つけられたと思っています。
   
7.参加民主主義的な仕組みを加えることについて
  有権者の意思を政治に反映させる方法は、選挙だけではありません。デモ・集会、
署名活動、住民投票、タウン・ミーティングなどの従来からある方法に加えて、90年代
以降に欧米で開発されて世界へと広まった「討議デモクラシー」の諸手法があります。
私は、地区・市・地方・中央の各政体において参加民主主義的な制度を用いることによ
って、有権者の意思を政治に反映させやすい政体にしようと考えました。
  1) 地区および市の政体について:①電子システムを利用した「21世紀型タウン・
    ミーティング」、②住民投票の2つを制度化します。また、市民主導の「まち
    づくり」プロジェクトも政治参加の1つの回路として確立していきます。
  2) 地方の政体について:(道州制に似た「地方制」を導入した上で)①「討議型
    世論調査」、②テーマ型の「21世紀型タウン・ミーティング」、③住民投票の
    3つを制度化します。また、中央の政治について市民同士が議論する公共空間
    としての役割を重視し、公式の市民会議を数多く開催します。
  3) 中央の政体について:政治の焦点となる各種テーマについて、全地方で「討議
    型世論調査」を行い、中央政治への反映を求めます。もし、中央政府の反映の
    し方に異議がある場合は、全地方での住民投票を請求できるようにして、全住民
    投票で決定される制度にします。
  なお、「 」内に入れた各種の手法については、本文原稿をお読みください。


8.4-②ローカル・デモクラシーの重視と4-④既存デモクラシーの長所の継承
 1)4-②ローカル・デモクラシー:身近な所から民主政治が行われるようにします。
    そのために、市や郡を細分化した「地区」を単位として、直接民主主義の方法も
   取り入れた近隣自治を制度化します。
 2)政体の全体構造を徹底した分権的性格のものにします。自分たちのことは自分たち
   で決めるという原理が貫かれるようにします。
 3)中央の政治では、権力分立の原理を継承し、その仕組みを強化します。
 4)有権者の意思を反映した政権交代が行われるようにします。
 5)立憲主義を継承し、憲法裁判所を設置して、その仕組みを強化します。

[2]問2と問3への答
  私は「主権の政治」に代えて、オリジナルの「公共性の政治」という政治概念を提唱
します。そして、公共性の政治を実行していく観点からは、「よりよき社会・経済にする
こと」は政治の当然の責務であると論じます。
 したがって、そういう政治が行われやすくなる政体にする必要がありますが、その仕組
みを構想するに先立って、各領域にどういう問題があるか、その解決に求められる基本的
方向性や基本政策はどういうものかを論じるべきだと考えました。
 それで、例として、社会領域ではエスニシティ差別の問題、経済領域では格差・貧困の
問題、企業への規制、金融領域の改革などを取り上げ、具体的な基本政策を示しました。
 その上で、持続的に諸問題に取り組んでいくための特別の機関として以下のものを提唱
しました。
  1) 地方〈社会〉評議会と中央〈社会〉評議会
  2) 地方〈経済〉評議会と中央〈経済〉評議会
 〈社会〉評議会の目的は、現代の日本社会にある各種の差別問題を1つ1つ取り上げて、
問題解決のための政策を作り、実行を促進していくことです。そのために、当事者集団や
市民団体からも評議員を選び、専門家および一般市民から選ばれる評議員とで構成される
〈社会〉評議会を地方と中央に作ります。
 〈経済〉評議会の目的は、現代の資本主義と各種の企業が生み出すさまざまな問題を取
り上げて、問題解決のための政策を作り、その実行を促進していくことです。そのために
経営者や労働者からも評議員を選び、専門家および一般評議員から選ばれる評議員とで構
成される〈経済〉評議会を地方と中央に作ります。
 単に「会議」とせず、「評議会」という名称にしたのは、地方評議会・中央評議会と同
等の独立した組織であることを示すためです。同じテーマについて、〈社会〉(または経
済)評議会とメインの評議会の意見が対立した時は協議すべきであり、協議によっても解
決しない時は、前者が全住民投票の実施を請求できます。
そして、全地方で住民投票が行われ、その結果で最終決定がなされます。
 詳細は、第2部の6章と7章、第3部の2章と3章をお読みください。

[3]問4への答=国家観念、「主権の政治」概念の消滅について
 第1部で論じたとおり、自由民主主義政体の問題点は、国民国家および「主権の政治」
の問題点とつながっています。したがって、新たな政体を確立するためには、これらの観
念・概念を廃棄していく必要があります。
 そのためにどうするかは、第2部5章で論じました。そこで強調したのは、観念の領域
だけではなく、実体の領域での変化も伴わなければ、消滅を実現することはできないとい
うことでした。例えば、国家観念の消滅のためには、新たな政体を実現し、その下で公共
性の政治と分権・自治を実行していくこと、同時に外交面では戦争の放棄・非武装中立を
現実のものにしていくことによる実体面の変化が必要です。こういう思想と構想を展開し
ました。
 第2部の文章展開では、問4の答が最初に述べられ、次に問1の答が始まり、途中で問
2・問3の答が入り、再び問1の解答の後半部分が述べられることになります。各部分で
思想も構想も述べていくので、長くなりますが、まとめて言えば以上のようなことです。
 6月に出版される著作の文章を読んでくれた皆さんのご意見・ご感想が聞きたいです。     

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