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序文 [提言]

序――この本が目ざすもの
[1]
  2020年代の今、世界各国でデモクラシーの危機を思わせる現象が起きて
いる。具体的な形は多様であるが、どの場合も民主政治の形骸化と政治への信頼
感の低下という点では共通している。そのため、各国ともに民主主義の根幹が揺
らぎ始めたと言えるような状況になっているのである。
 こうした状況を反映して、民主主義の危機や衰退を論じる本が多数出版される
一方、民主主義という政治体制の有効性を疑問視して、非民主的なものに置きか
えることを主張する著作も現れるようになっている。(例:「アゲンスト・デモ
クラシー」)
 私は、大きな分類で言えば、民主制が最も良い政治制度であると考えている。
しかし、小分類で言えば、現在普及している代議制民主主義政体がベストである
とは言えず、本来の民主主義の理念に基づく、よりよい形の民主政体がありうる
と考えている。この著作は、そうした民主政体の一例を提示し、政治理念から具
体的な諸制度に至るまでの全体を「ネクスト・デモクラシー」として描き出すも
のである。
 私は、その政体が現代社会の抱える諸問題を解決して、よりよい社会とよりよ
い経済へと改革していくためにも役に立つものだと考えている。その意味で、社
会の面でも、経済の面でも、政治の面でも、現代が必要とする性質を備えた政体
であると思う。これからの時代に合わない古い政治体制からはできるだけ早く離
脱し、新しい政治体制の下で多くの有権者の知恵と力を結集して、みんなが幸福
に生きられる社会・世界をめざした政治を営んでいくべきだと考える。


[2]
 この本は上記の解決策を示すものであるが、具体的な目的は、
  1) 現在の自由民主主義政体に代わるべき、新たな民主政体の思想とビジョ
    ンを示すこと
  2) 同時に、それがよりよき社会・経済を作るための拠点にもなりうること
    を示すこと
という、2つである。
 私は、政治体制のみならず、現代の社会のありよう、経済のありようは、どれ
だけ人々の幸福な生活の基盤になっているかという規準から考えて、ひどいもの
になっていると思う。この点は、多くの人々の共通認識にもなっていると思われ
るのであるが・・。
 したがって、来たるべき政体は、社会・経済領域に巣食うさまざまな問題を放
置するものであってはならない。それらの問題を避けては通れない公共的な課題
として取り上げ、政治の回路からも解決を図っていくべきである。そうした取り
組みが行われやすくなる政体を目ざしたいと思う。
 そのためにも、その他多くの政治課題の解決のためにも、政体の変革が大きな
変化をもたらすと考えている。これまでの政体では到底できなかったようなこと
が実現可能になるからである。例えば、戦後の「占領改革」が目覚ましい「農地
解放」をもたらしたように…。しかも、構想の意図したようになれば、上からの
改革ではなく、普通に生活している人々が望むような諸改革が実現できるように
なるのだから、より意義深いものとなる。
 ある人は、「それって、どんな政体なの」と早速聞きたくなるかもしれない。
一口で言うのは、難しいのであるが・・。そういう時は、「近現代の歴史的事例
や、近年の先進国の良き先例にも学びつつ、以下の諸要素の総合によって生み出
される独創的なビジョンを考えた」と答えようと思う。
 1つは、20世紀の政治学者、ハンナ・アレントが提唱した評議会制システム
     を部分的に採り入れること。
 2つ目は、小さな自治からの出発を重視する「ローカル・デモクラシー」の政
     体系列を中軸に据えること。
 3つ目は、eデモクラシーの技術を活用しつつ、参加民主主義的な性格が際立
     って強い民主政体にすること。
 しかし、4つ目に政権交代や権力分立などの、既存の政体の良い点を、形を変
     えて継承していくこと。
 もちろん、これらを貫く新しいデモクラシーの思想があり、その詳しい説明も
心がけた。その点も含めて考えると、この民主主義思想と政体ビジョンは、近代
が生み出した思想と政体モデルの欠陥を是正し、乗り越えることを目ざしたもの
であるとも言える。
 実際にできあがったものが、こうした壮大な自負にふさわしいものであるかど
うかは、読者諸氏の判断に委ねたいと思う。皆それぞれに、自身の認識や希望や
経験にもとづいて考えていくのだから、答の多様性もあって当然なことである。
それでも、この著作から何らかの刺激を得たと思ってくれる人々がいるなら、私
としては十分満足できると思っている。
 以上の思いとともに、今後の展開も多難を極めるに違いない世の中、世界に向
けて、この提言を発表することにする。

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