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新たな民主政体の基本法試案 [提言]

新たな政体の基本法試案

はじめに
 ネクスト・デモクラシーを確立するためには、その政体の基本法となるもの
を制定する必要がある。それは、日本国憲法との関係では全面的な憲法改正を
意味するものであるため、大きな政治的変動の過程を経ることによってのみ可
能になるだろう。その過程全体が具体的にどのようなものになるかは予言でき
ないが、過程の終盤には憲法制定の会議が開かれて、新憲法案が決まっていく
ことになるはずである。
 したがって、実際の基本法の内容はその会議を構成する人々の意向の総和に
よることになるが、ここでは私の考えた一試案を示してみたいと思う。案の作
成にあたっては、日本国憲法はもちろんのこと、欧州各国の基本法も参考にし
つつ、それらを超えた、より民主的で人道的な性格のものにしていくことを目
ざした。その結果まとまったものが、以下の試案である。
 なお、序文では、「新たな民主主義を仮にネクスト・デモクラシーと呼ぶ」
としたが、この基本法案では、これに代えて、「連帯民主主義」という名称を
用いることにする。「連帯」という言葉こそがこの民主主義の本質的特徴を表
すものだと思うからである。
********************************

『日本列島市民政治体の基本法』(案)

前文
 20xx年、日本列島に住むすべての住民は、「連帯民主主義」に基づく新
たな政体を樹立し、その下で共に生活していくことを決定した。
 「連帯民主主義」の政体は、「人々の、人々による、人々のための政治」と
いう理想を現代において実現することを目ざすものである。また、よりよき経
済とよりよき社会を作るためのさまざまな政策の発案と実施をつねに促進して
いくためのものである。
 この政体の主人公は、いかなる公務も持たない、普通の生活者である私たち
市民である。私たちが自らの意思にもとづき、議員選挙をはじめとする複数の
方式によって政治参加を行い、それによって「人々による政治」を現実のもの
としていく。
 政治的権利は、国籍を問わず、すべての住民に与えられる。その他の権利に
ついても、国民であるかどうかは関係なく、すべての住民が平等の権利を与え
られる。国民国家は無くなり、国民という言葉は過去のものとなる。
 「国」・「国家」という言葉と考え方も消滅する。そこには、ただ市民たち
の日常を生きる社会があり、その社会の有用な道具としての市民政府・行政機
構が作られ、機能していくだけである。
 私たち日本列島の住民は、こうした性格を持つ新たな政体を構築し、運営し
ていくための基本法として、以下の各条項を定め、守っていくことにする。

第1章 総則
第1条(「日本列島政治体」)
    日本列島政治体は、この地域に住み、生活をする全ての住民のための
    ものである。
     その政治は、近隣地域の政体から中央の政体に至るまで、そこに居
    住する住民の自治によって行われる。
 2項 この政治体の一員となることを希望する人は、市や地区の事務局にお
    いて住民の登録手続きを行うことだけで、正規の有権者となることが
    できる。
第2条(「公共性の政治」)
    現代における住民の自治は、以下のような性質を持つものでなければ
    ならない。
     これを「公共性の政治」理念と呼ぶ。
    「 公共性の政治とは、すべての住民が対等の関係において、自由と
    連帯の理念および民主主義の運用ルールに基づき、個人の自由と多様
    性を尊重しながら共通の課題に取り組んでいく時に生まれる政治の質
    を指すものである。」
第3条(権利の平等)
    この政治体においては、すべての住民が対等の関係にある。すべての
    住民は、基本権においても政治的権利においても平等な権利を持ち、
    差別されない。
第4条(自由と連帯)
    この政治体においては、すべての住民が互いに協力し、自発的に助け
    合うという意味で、自由と連帯の理念によって結ばれる。公共性の政
    治は、この関係を基礎として成り立つものである。
第5条(多様性の尊重と共生)
    この政治体は、各種の多様性が尊重される中で人々が生きていける社
    会を目ざすものである。いかなる意味でも少数者が差別され、排除さ
    れることがあってはならない。
第6条(分権と自治)
    この政治体の政治と行政は、分権と自治の原理にもとづいて行われる。
     これを構成する地区の政体、市の政体、地方の政体、中央の政体は
    互いに独立性を持ち、協力しながら、政治と行政の活動を進めていく。
     各政体の機能と権限範囲については、第4章に記述する。

第2章 公共的基本権と政府の基本的任務
    すべての住民は、基本的人権の他に、政治体によって保障されるべき
    「公共的基本権」を持つ。これらの権利が保障される状態を実現し、
    維持することは、各政体の政府の基本的な任務である。
[平和]
第7条  すべての人は、いかなる戦争にも巻きこまれず、平和に生活してい
     く権利を持つ。
      これを「平和生存権」と呼ぶ。
第8条  私たちの政府と公務員は、平和を守り抜くために最善の努力を尽く
     す義務を持つ。
第9条  私たち日本列島の住民は、いかなる理由であれ、戦争という野蛮な
     行為をしない。
      このことを全世界に向けて誓う。
 2項  私たちは、自衛のための武力を含めて、いかなる戦力も持たない。
     前項の「戦争放棄」とともに、「戦力の不保持」を全世界に向けて
     誓う。
第10条 私たち住民とその政府は、核兵器の廃絶のために全世界の人々と連
     帯して行動していくことを誓う。
  2項 私たち住民とその政府は、あらゆる兵器の開発・貯蔵・売買・供与・
     使用に反対する。その全面廃棄を呼びかけ、戦争の無い世界を目ざ
     していく。
[共生]
第11条 すべての人は、民族や人種、国籍や宗教によって差別されることが
     ない社会に生きる権利を持つ。
      これを「共生生存権」と呼ぶ。
第12条 すべての人は、性別や身分、性的多様性、各種の障がい、各種の病
     気、放射能被曝などによって差別されない社会に生きる権利を持つ。
[自然環境・社会保障・法の秩序]
第13条 すべての人は、心身の健康に役立つ、安全で良好な自然環境の下で
     生活する権利を持つ。
第14条 すべての人は、健康のために適切な治療を受ける権利を持つ。
第15条 すべての子供と未成年は、希望する人生のために適切な教育を受け
     る権利を持つ。
第16条 働く能力を持つすべての人は、雇用を保障される権利を持つ。
第17条 すべての人は、絶対的および相対的貧困から解放された生活を送る
     権利を持つ。
第18条 すべての高齢者は、老後の不安と困窮から解放された生活を送る権
     利を持つ。
第19条 すべての人は、公正な法秩序と良好な治安状態の下で生活する権利
     を持つ。

第3章 個人の基本的権利と義務
[基本権]
第20条 すべての人は、侵してはならない基本的人権を持ち、かけがえのな
     い個人として尊重される。
第21条 すべての住民は、平等の政治的権利と義務を持つ。
  2項 選挙の有権者となる年齢は、法律によって定める。
  3項 すべての人は、議会外で活動する政治結社を形成し、参加する自由
     を持つ。
      (これまでの「政党」については、第4章40条で述べる。)
第22条 すべての人は、生命への権利と心身を害されない権利を持つ。これ
     を損ない、侵害する行為は、すべて犯罪である。
  2項 すべての人は、あらゆる種類のいじめとパワーハラスメントの被害
     を免れる権利を持つ。
  3項 すべての人は、過酷な労働条件で働かされることから保護される権
     利を持つ。
第23条 すべての人は、自由意志にしたがって行動し、幸福を追求して生き
     る権利を持つ。これに関する個人の意思は最大限に尊重されなけれ
     ばならない。
第24条 すべての人は、それを望む二人の合意のみによって結婚することが
     できる。
  2項 同性同士であっても、結婚することができ、法的に差別されない。
  3項 結婚が可能になる年齢は、法律によって定める。
第25条 すべての人は、移動の自由と移住の自由を持つ。
  2項 この政治体から離脱したい時は、住民登録の停止を申請することに
     よって、手続きを完了することができる。
第26条 すべての人は、表現の自由を保障される。ただし、差別的言動やイ
     ンターネットなどを通じて他者を傷つける行為は許されない。
  2項 すべての行政機関は、検閲やイベント中止措置などによって各種の
     表現行為を妨害してはならない。
第27条 思想信条の自由、信仰の自由、良心の自由は、不可侵の権利として
     保障される。
第28条 すべての人は、プライバシーを保護される権利を持つ。保護される
     べき情報の範囲は、法律によって示される。
第29条 すべての人は、自分の所有する財産を守る権利を持つ。財産には、
     多くの種類の知的財産の他、価値あるデータや情報なども含まれる。
第30条 すべての勤労者(公務員を含む)は、労働組合を作り、経営者また
     は行政の当局と交渉し、ストライキを行う権利を持つ。
第31条 すべての大学生と専門学校生は、自治的組織を作り、教育機関当局
     と交渉し、よりよい条件の下で教育を受ける権利を持つ。
第32条 すべての人は、学問の自由を持つ。これを保障するため、教育機関
     の自治は尊重されなければならない。
[住民の義務]
第33条 すべての人は、法律・条令その他の公共的な規則を守る義務を負う。
第34条 すべての人は、法律の定めにしたがって納税する義務を負う。
[子供と未成年]
第35条 子供と未成年は、生命への権利と健康で人間らしい生活を送る権利
     を持つ。
  2項 子供と未成年は、あらゆる暴力・虐待・搾取から守られ、幸福に生
     きる権利を持つ。
第36条 子供と未成年は、その意思が尊重され、自由に発言や活動ができる
     権利を持つ。
  2項 子供と未成年は各種の政治活動をする権利を持つ。
  3項 子供と未成年は、親の信じる宗教によって発生する、あらゆる苦痛
     から救われ、自由に生きる権利を持つ。

第4章 政体に関する規定
[全体構成と基本原則]
第37条 全体は大きく、市レベルの政体、地方レベルの政体、中央レベルの
     政体に分けられる。市レベルの政体にはこれを細かく区分した地区
     の政体、地方レベルの政体にはこれを区分した広域連合の政体が含
     まれる。
第38条 地区は市(農村部では郡、大都市部では区)に対して、市は地方に
     対して、地方は中央に対して独立性を持ち、それぞれの範囲内で自
     治を行うことができる。
第39条 各レベルの機能は、補完性の原理によって決定される。したがって、
     地方は市に対して補完的な機能を持ち、中央は地方に対して補完的
     な機能を持つ。
第40条 各レベルにおける議会政治および各種の選挙は、政党が関与しない
     形で行われなければならない。
  2項 こうした活動を行う団体としての政党の結成は禁止される。
第41条 政治と宗教は厳しく分離されなければならない。
  2項 公金は、特定の宗教団体のために支出されてはならない。
[市レベルの政体]
第42条 市レベルの政体には、①市評議会、②執行委員会と事務局、③地区
     委員会と事務局、③各種の行政委員会と事務局の4つが含まれる。
     執行委員会と事務局は、市の政府にあたるものである。
  2項 市レベルの政体は、位置する地域によって名称が変わる。農村部で
     は郡の政体、東京特別区(23区)では区の政体と呼ばれる。
      以下では、市をそれらの総称として用いて、条文を表記する。
  3項 市の政体は、市政の全般と市民生活に必要なすべての機能に関する
     政治と行政活動の役割を持つ。
第43条 市評議会は、討議と議決のための機関として、市の民主政治の中心
     となる。その成員を評議員と呼ぶ。
  2項 市評議員は、市に住むすべての成人住民を有権者とする普通選挙に
     よって選ばれる。すべての成人住民は、立候補する資格を持つ。
  3項 市評議会は、男女同数の評議員によって構成される。
  4項 市評議会には、外国籍を持つ評議員が含まれる。在日韓国・朝鮮人
     と、その他の外国人に分けて、人口割合に比例した議席数が確保さ
     れる。人口割合に比例した議席数が1未満になる場合は、それぞれ
     1議席とする。
  5項 市評議員は、非常勤公務員として活動し、勤務日数・時間に応じた
     給与を受け取る。任期は3年とし、5期まで再選されることができ
     る。
  6項 市評議員は、事務局の中に置かれる各種の行政委員会のどれか1つ
     に所属し、評議員と行政委員を兼任する。
  7項 評議員は、市評議会で解任が提案され、定数の3分の2以上が賛成
     した時、任期途中で解任される。
第44条 市執行委員会は、評議会の決定事項を執行し、市の行政の中心とな
     る機関である。
  2項 市執行委員会は、評議会の中で執行委員選挙によって選ばれる。
      執行委員の任期は1年とし、再選されることができる。
  3項 市執行委員は、事務局の中に置かれる各種の行政委員会のどれか1
     つに所属し、執行委員と行政委員を兼任する。
第45条 市の行政委員会は、事務局の中に置かれ、各行政部門の活動を指揮・
     監督する機関である。
  2項 各行政委員会は、同数ずつの市評議員と市公務員によって構成され
     る。評議員の配置は、市評議会によって決定される。
第46条 地区の政体は、各市の中の中学校区毎に置かれる政治・行政の機構
     である。
第47条 地区委員会は、討議・議決の機関であると同時に、日常的な行政活
     動の機関でもある。
  2項 地区委員は、すべての成人住民の普通選挙によって選ばれる。すべ
     ての成人住民は、これに立候補する資格を持つ。
  3項 地区委員会は、男女同数の評議員によって構成される。
第48条 年1回、地区の住民総会が開かれる。ここでは、地区委員会の活動
     方針、活動報告、決算報告と予算案、特別議題などが話し合われる。
  2項 地区の住民は、いつでも地区委員や事務局に何らかの行政活動を要
     請したり、議題の提案をしたりすることができる。
第49条 地区の政体は、下記のような権限の範囲を持つ。
   ① 教育分野:保育園・小学校・中学校
   ② 福祉分野:高齢者・障がい者・基準以下の低所得者への福祉
   ③ 文化分野:図書館・文化活動・スポーツ
   ④ 保健分野:感染症関連の行政サービス、在宅医療の支援
   ⑤ 防災分野:避難訓練・各種防災点検と市への報告
   ⑥ まちづくり分野:まちづくりの支援
第50条 市の政治は、市評議会における討議の他に、以下の2種類の直接民
     主主義的方法によって行われる。市評議会は、これらによって得ら
     れた結果を尊重しつつ、決定を行わなければならない。
     ① 決定力を持つ住民投票 ②電子機器を用いたタウン・ミーティン
     グ
第51条 外国籍を持つ住民の声を市政に反映するために、外国人市民会議が
     定期的に開かれる。市の諸機関は、この会議の成果を活かして、外
     国人も住みやすい街にするための活動に取り組んでいく義務がある。
[地方の政体]
第52条 地方の政体は、市レベルと中央レベルの中間に位置する政体である。
  2項 地方の政体の中には、各地方を2つ、または3つに分けた広域連合
     の行政機構がおかれる。広域連合は、その中にある市や郡の連合体
     である。
第53条 地方の区分、広域連合の区分は次のとおりである。
  北海道地方(2):中南部(道南・道央)、北東部(道北・道東)
  東北地方(3):北東北(青森・岩手)、西東北(秋田・山形)、南東北
         (宮城・福島)
  関東地方(4):北関東(栃木・群馬・埼玉)、東関東(茨城・千葉)、
          南関東(東京・神奈川)、東京都心部(23区)
  中部地方(3):甲信越(山梨・長野・新潟)、北陸(富山・石川・福井)、
          東海(静岡・愛知・岐阜・三重)
  関西地方(3):西関西(大阪・兵庫)、東関西(京都・滋賀)、南関西
         (和歌山・奈良)
  中国地方(2):山陽(岡山・広島・山口)、山陰(鳥取・島根)
  四国地方(2):北四国(香川・愛媛)、東南四国(徳島・高知)
  九州地方(2):北九州(福岡・佐賀・大分・長崎)、南九州(熊本・宮
          崎・鹿児島)
  沖縄地方(2):本島地域(本島・沖縄諸島)、先島地域(八重山群島・
          宮古群島)
第54条 地方の政体には、①地方評議会、②地方〈経済〉評議会、③地方
     〈社会〉評議会、④執行委員会と事務局、⑤広域連合と事務局、
     ⑥各種の行政委員会と事務局の6つが含まれる。執行委員会と事務
     局は、地方の政府にあたるものである。
第55条 地方評議会は、討議と議決のための機関として、地方の民主政治の
     中心となる。その成員を地方評議員と呼ぶ。
  2項 地方評議員は、その地方で活動するすべての市評議員を有権者とす
     る選挙によって選ばれる。すべての市評議員は、立候補する資格を
     持つ。この選挙の具体的方法は法律によって定める。
  3、4、7、8項 市評議員に関する43条3、4、6、7項と同じ規定
     とする。
  5項 北海道地方評議会には、先住民族アイヌの評議員が含まれる。
  6項 地方評議員は、常勤公務員として活動し、毎月給与を受け取る。
     任期は3年とし、5期まで再選されることができる。
第56条 地方執行委員会は、評議会の決定事項を執行し、地方の行政の中心
     となる機関である。
  2、3項 市執行委員会に関する44条2、3項と同じ規定とする。
第57条 地方の行政委員会は、事務局の中に置かれ、各行政部門の活動を指
     揮・監督する機関である。
  2項 市の行政委員会に関する45条2項と同じ規定とする。
第58条 広域連合は、市と地方の中間レベルに位置する行政の機構である。
     この行政機構は、その地域に含まれるすべての市・郡の連合体とし
     ての性格を持つ。
  2項 広域連合には、1つの運営委員会と必要な数の行政委員会が置かれ
     る。運営委員会は、広域連合の行政の中心となる機関である。
  3項 行政委員は、その区域に属するすべての市・郡・区評議会から1人
     ずつ選ばれる。
  4項 運営委員は、行政委員の中から互選で選ばれる。
第59条 広域連合と地方の政体は、下記のように権限の分割を行う。
    広域連合:防災・救助、インフラ管理、交通管理、私企業管理、雇用・
         労働、医療・保健、生活福祉、環境保全、農林・水産業支援
    地方政体:以上の9つの他に、教育、文化・芸術、社会改革、経済政策・
         経済改革、産業政策、エネルギー、地方放送・通信、地方
         づくり、土地・建築の管理、観光の振興など。
  2項 共通する9つの分野については、地方政体が政策の決定、地方全体
     の計画の作成、予算配分を行い、広域連合が広域内の詳細計画と実
     行を担当するという分業体制にする。
第60条 地方〈経済〉評議会は、その地方において「よりよい経済」を実現
     するために何をすべきかを議論し、その方策を決定するための機関
     である。
  2項 評議員の構成は、経営者代表が4分の1、労働者代表が4分の1、
     専門家が4分の1、一般市民が4分の1となる。それぞれの選出方
     法は、法律によって定める。
  3項 「よりよい経済」が満たすべき各種の条件、到達目標は法律によっ
     て定める。
第61条 地方〈社会〉評議会は、その地方において差別と抑圧のない「より
     よい社会」を実現するために何をすべきかを議論し、その方策を決
     定するための機関である。
  2項 評議員の構成は、当事者代表が4分の1、関連市民団体が4分の1、
     専門家が4分の1、一般市民が4分の1となる。それぞれの選出方
     法は、法律によって定める。
  3項 「よりよい社会」が満たすべき各種の条件は法律によって定める。
第62条 上記2つの評議会は、地方評議会と協働しながら、担当する諸課題
     の解決に取り組む。
  2項 同じ議案について、地方〈経済〉評議会(または地方〈社会〉評議
     会)と地方評議会の結論が異なる場合は、前者と後者が協議して決
     定する。
  3項 協議による調整ができなかった場合は、住民投票を行い、その結果
     にもとづいて決定する。
第63条 地方の政治は、3つの評議会における討議の他に、以下の3種類の
     直接民主主義的方法によって行われる。地方評議会は、これらによ
     って得られた結果を尊重しつつ、決定を行わなければならない。
     ① 決定力を持つ住民投票 ②討議型世論調査 ③電子機器を用い
     たタウン・ミーティング
[中央の政体]
第64条 中央の政体の主な役割は、以下の諸機能に関する政治・行政活動を
     行うことと、緊急時の対応を行うことである。
     ① 国際関係:外交と通商、さらには国連関係の活動、移民・難民、
       国際支援
     ② 出入国と輸出入:入管・検疫など。
     ③ 経済全体の政策:通貨・金融システム・税制・産業振興・貿易
      など。
     ④ 統一されたルール:さまざまな法律、公的資格認定の基準、交
      通ルールなど
     ⑤ 大災害時の緊急支援や復興支援、⑥各種インフラや通信網や放
     送、⑦先端技術の開発、⑧気象予報・地震情報など、⑨よりよき社
     会・経済のための改革、⑩新たに発生する諸課題
第65条 中央の政体には、①中央評議会、②中央〈経済〉評議会、③中央
     〈社会〉評議会、④地方代表者会議、⑤中央執行委員会と事務局、
     ⑥各種の行政委員会と事務局の6つが含まれる。
      中央執行委員会と事務局は、中央の政府にあたるものである。
第66条 中央評議会は、討議と議決のための機関として、中央の民主政治
     の中心となる。
  2項 中央評議員は、その地方で活動するすべての市評議員と地方評議員
     を有権者とする選挙によって選ばれる。すべての評議員とその経験
     者、および、すべての地区委員とその経験者は、立候補する資格を
     持つ。
  3~8項 地方評議員についての55条3~8項と同じ規定とする。
第67条 中央執行委員会は、評議会の決定事項を執行し、中央の行政の中心
     となる機関である。
  2項 中央執行委員会は、すべての有権者による普通選挙によって選ばれ
     る。執行委員の任期は3年とし、3回まで再選されることができる。
  3項 すべての中央評議員は、一定人数の候補者グループを形成し、グル
     ープとして執行委員会選挙に立候補する権利がある。各候補者グル
     ープは、中央評議会での選挙で1位から4位までの得票数を得るこ
     とによって、全地方で実施される普通選挙に臨むことができる。こ
     れら一連の選挙の実施方法は、法律によって定める。
  4項 中央執行委員は、事務局の中に置かれる各種の行政委員会のどれか
     1つに所属し、執行委員と行政委員を兼任する。
  5項 中央執行委員会は、任期の途中であっても、定数の3分の2以上の
     中央評議員が解任決議案に賛成した場合に解任される。その場合に
     は、30日以内に、次の執行委員会を選ぶ普通選挙が実施されなけ
     ればならない。
第68条 中央の行政委員会は、事務局の中に置かれ、各行政部門の活動を指
     揮・監督する機関である。
  2項 市の行政委員会に関する45条2項と同じ規定とする。
第69条 中央〈経済〉評議会は、列島全域において「よりよい経済」を実現
     するために何をすべきかを議論し、その方策を決定するための機関
     である。
  2、3項 地方〈経済〉評議会に関する60条の2、3項と同じ規定とす
     る。
第70条 中央〈社会〉評議会は、列島全域において差別や抑圧のない「より
     よい社会」を実現するために何をすべきかを議論し、その方策を決
     定するための機関である。
  2、3項 地方〈社会〉評議会に関する61条の2、3項と同じ規定とす
     る。
第71条 上記2つの評議会は、中央評議会と協働しながら、担当する諸課題
     の解決に取り組む。
  2、3項 地方〈経済〉評議会および地方〈社会〉評議会に関する62条
     の2、3項と同じ規定とする。
第72条 地方代表者会議は、地方間の平等性と連帯を実現するために重要な
     議題について話し合い、決定するための組織である。
  2項 この会議は、中央評議会に参加している評議員から各地方3名ずつ
     を選出することによって構成される。
  3項 議題についての決定は全員一致方式でなされる。そのため、ある地
     方が原案に反対したい場合は拒否権を行使することができる。
第73条 中央の政治は、3つの評議会における討議の他に、以下の3種類の
     直接民主主義的方法によって行われる。中央評議会は、これらによ
     って得られた結果を尊重しつつ、決定を行わなければならない。
     ① 決定力を持つ住民投票 ②討議型世論調査 ③電子機器を用い
     たタウン・ミーティング
  2項 ②および③の会議によって得られた結論と中央評議会の決定に大き
     な差がある場合、会議に参加した人たちは、その課題についての住
     民投票を請求することができる。最終決定は住民投票の結果によっ
     てなされる。
第74条 中央執行委員会の事務局の組織構造は官僚制的な集権型のものでは
     なく、自由な分権型のものにすべきである。各組織単位間の連絡と
     調整は、水平型のネットワーク構造をもとにして行われる。

第5章 司法の制度
第75条 すべての人は、必要な場合にいつでも公正な裁判を受ける権利を持
     つ。
第76条 通常の裁判のための制度は、①広域裁判所、②地方裁判所、③中央
     裁判所の三審制である。この他に、特定の法律、条令、政策などが
     憲法に違反していないかどうかを判定するための④憲法裁判所と簡
     単な事案に対応するための⑤簡易裁判所が置かれる。
  2項 広域裁判所は、各広域連合に設置される。地方裁判所は、各地方に
     設置される。中央裁判所と憲法裁判所は、首都東京に設置される。
      簡易裁判所は、旧都道府県にその広さに応じて、1つから3つま
     で設置される。
  3項 すべての原告および被告は、広域裁判所の判決に不服がある時、地
     方裁判所に上告することができる。さらに中央裁判所で争うことが
     できる。
第77条 各種の裁判所の裁判官は、政治機構や行政機構からの介入がない形
     で任用される。任用の決定の方法は、法律によって定められる。
第78条 中央裁判所と憲法裁判所の裁判官については、中央評議会で審議が
     行われ、3分の2以上の評議員が賛成した時、罷免することができ
     る。
第79条 すべての裁判は公開の法廷で行われ、傍聴することができる。
第80条 一般市民も「裁判員制度」を通じて裁判のプロセスに参加すること
     ができる。この制度の仕組みと運用については、法律で定める。
第81条 すべての有権者は、まず簡易裁判所において問題提起することによ
     って、ある法律の違憲性を問うプロセスを始めることができる。
      そこで賛成が得られた時、憲法裁判所に訴訟を起こすことができ
     る。勝訴した場合、その法律は無効となる。
  2項 各評議会の評議員も、定数の3分の1の議員の賛成が得られた場合、
     このプロセスを始めることができる。
第82条 すべての人は、警察と検察による違法な処置と人権侵害の行為を受
     けない権利を持つ。
  2項 逮捕・拘留・捜索・押収に関して人権を守るための具体的な規定は、
     法律で定められ、すべての人に伝えられる。
  3項 冤罪による逮捕・拘留・刑罰は、絶対にあってはならない。冤罪で
     あったことが明らかになった場合には、その原因と過程を完全に究
     明し、これを生みだした責任者と関与した者たちを処罰しなければ
     ならない。
  4項 冤罪が明らかになった時は、それによって刑罰を受けた者に対して、
     中央政府は正当な補償をしなければならない。逮捕や拘留によって
     生じた被害については、市政府が補償しなければならない。
第83条 刑罰の種類およびその執行も人道的なものでなければならない。
  2項 死刑という残虐な刑罰は廃止する。

第7章 財政民主主義
第84条 各政体の中央執行委員会と事務局は、評議会と行政委員会の決定に
     もとづいて財政支出を行わなければならない。
  2項 これを確実にするために、毎年、各政体において、厳正な監査が実
     行されなければならない。
第85条 税制の決定や予算案の作成は、基本法が定めた公共的理念の実現を
     目ざして行われるべきである。
  2項 税制の決定や変更は、直接民主制的方法も含めた民主的プロセスに
   よって行われるべきである。
3項 税収の各政体への配分は、分権の原理の実現という原則にしたがって行わな
    ければならない。

第8章 憲法改正
第86条 この憲法は、中央評議会の総議員の3分の2以上の賛成が得られた
    時、改正を発議できる。中央と地方の事務局は、これを受けて、全地
     方における住民投票を準備する。住民投票が実施され、有効投票の
     過半数が改正案に賛成する票だった場合に、この憲法は改正される。

第9章 その他の規定
第87条 民主主義を思想的にも確立するため、天皇制と皇室制度は廃止され
     る。
  2項 すべての旧皇族は、一般住民と同等の権利・義務を持つようになる。
     年金等の社会保障の対象にもなる。
  3項 過渡的措置として、旧皇族の人々が一般住民としての安定した生活
     を送れるように、職業教育その他の支援を実施すべきである。これ
     は、中央の政体の義務となる。
                          以上

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『ネクスト・デモクラシーの構想 よりよき社会のための政体へ』の解説 [提言]

『ネクスト・デモクラシーの構想 ―新たな民主政体へ』について    2023.5.24               

《著作の説明》

1. 著作の題名
『ネクスト・デモクラシーの構想 ―新たな民主政体へ 』

2. 目的:①現在の自由民主主義政体に代わるべき、新たな民主政体の思想とビジョンを示すこと。
②同時にそれが、よりよき社会・経済への変革を促す拠点にもなることを伝えていくこと。

3. 全体の構成
  (元の原稿の場合です。・・4月に構成の見直しを行いました。これは、1月段階の
   もので、このブログに掲載中の各章原稿と対応しています。)

第1部 歴史をふまえ、現状を見つめて、未来へ

まず、ハンナ・アレントの政体変革論・評議会制論を紹介し、次に国民国家の問題点
と自由民主主義政体の来歴を述べ、最後に「民主主義の危機・衰退」 の因果関係を論じ
ます。

第2部 ネクスト・デモクラシーの思想と構想

  政体の基礎となる政治思想を述べ、アレントの評議会思想を説明し、結合すべきロー
カル・デモクラシー、差異の政治(民族差別などの問題)、経済の 民主化などの諸側面
を論じていきます。

第3部 新しい民主政体のビジョン

 第2部の考察をもとにして作り上げた、あるべき民主政体の具体的なビジョ ンを提示
します。その政体の基本法となる憲法試案も書きました。最後に、新政体の基本的特徴
と歴史的意義を述べて、まとめとしました。

3. 各種のポイントの説明
  ① アレントの変革論との関係
   今回の著作は、ハンナ・アレントの変革論から出発するというスタイルをとりま
   した。それは、アレントの著作からヒントをもらい、評議会制を1つの軸にしよ
   うと思ったからですが、付け加えた部分も多いので、全体としてはだいぶ違った
   ものになっています。特にアレントは、政治は政治、社会・経済の問題は別の領
   域と峻別してしまうのですが、その点は大きく変えました。
  ② 評議会制を軸に・・と言う場合、その性格が一時的な革命の機関なのか、平時
   の政体なのかを明確にしておくべきですね。アレントの著作や発言は、その点が
   よく意識されていない感じです。私は平時の政体として書きました。
  ③ もう1つ大事な点は、平時の政体であっても、評議員になろうと立候補してく
   る人たちの質は現在の政党政治・地方自治とは大きく変わっていくだろうと予想
   されることです。保守も右翼も参加するでしょうけど、よりよき社会への変革に
   前向きな人々の割合が増え、その人たちがヘゲモニーを握れるだろうな、と。
  ④ 全体としてですが、このビジョンはすべて、民主化革命やそれに準ずるような
   政治的大変動の後に実現されるべきものとして考えたものであり、それらがもた
   らすであろう状況・政治的力関係の変化を前提にしています。

****************************************

《ビジョンの解説》 (「著作の説明」のつづきです。)
              
 1.この著作が目ざすもの
  1) 現在の自由民主主義政体に代わるべき、新たな民主政体の思想とビジョンを示す
    ことです。
  2) 同時に、それがよりよき社会・経済を作るための拠点にもなりうることを示すこ
    とです。

 2.ここに書いた2つの目標を1つにまとめてみると、新たな政体の基本的性格を表現
   するものになります。つまり・・
   「新たな政体は、よりよき社会・経済を作る機能をそなえた、真の民主主義を可能     にする政体である。」ということです。

 3.私は、このビジョンを形作っていく過程で、大きく分けて以下の4つの問い(4つ
  の中には枝分かれした各種の問いが含まれる)に答えようとしながら、考えを進めま
  した。なので、ビジョンの説明も、それぞれの問いにどう答えたかを軸にして整理す
  ると分かりやすくなると思います。以下では、その方針で説明していこうと思います。
   政体変革論ですから、問1への答が一番の中心となるので、そこはより詳しく説明
  していこうと思います。

  問1 よりよい民主主義にするためには、どのような民主政体にすべきか。
  問2 よりよい社会をつくる機能を持たせるためには、どのような仕組みを加えるべ
     きか。
  問3 よりよい経済をつくる機能を持たせるためには、どのような仕組みを加えるべ
     きか。
  問4 国家の観念を消滅させるためには、どうすべきか。政治の基本的な考え方(
     「主権の政治」概念を指す)をどのようなものに変えていくべきか。

[1] 問1への答
 私は、以下の4つの要素を組み合わせることによって、新たな民主政体の基本骨格を
作りました。
  ① 政体の中軸に、「評議会制」のシステムによる議員の選出制度を置くこと。
  ② 小さい政治・行政単位における民主政治の意義を重視する「ローカル・デモク
    ラシー」の考え方にもとづいて全体を組み立てること。
  ③ eデモクラシーを含めた、各種の「参加民主主義」的方法(市民の直接参加を
    可能にするもの)を地区・市・地方・中央の各レベルの政体に取り入れて、市
    民と政治の距離を近づけること。
  ④ これまでのデモクラシーに含まれる、いくつかの良い点(政権交代の制度、権
    力分立など)を継承すること。
 4つ目は、部分的なものにとどまるので、大きな柱は、①から③までの3つです。特
に①と③の組み合わせを最大の特徴とするデモクラシーであると言えます。なので、以
下では①と③について特に詳しく説明することにします。

5.「評議会制」とは何か。
  評議会については名前しか知らない人も多いと思うので、この説明から始めます。
 ハンナ・アレント自身が著書『革命について』の中で以下のように歴史にもとづく説
 明をしているので、その引用から始めます。(註:「ソヴィエト」というのは、もと
 もと、評議会のロシア語名でした。)
 
  「 ロシア(1917年)の場合は、労働者、農民、兵士の評議会、ハンガリー(195
   6年)の場合は非常に雑多な評議会というように、この二つの事例では、相互に
   まったく無関係に、いたるところで評議会あるいはソヴィエトが発生した。
    たとえばハンガリーの場合、あらゆる居住地域に出現した地域的な評議会、街
   頭における共同の闘争の中から成長してきたいわゆる革命評議会、ブタペストの
   カフェで生まれた作家や芸術家の評議会、大学における学生・青年評議会、工場
   の労働者評議会、軍隊の評議会、公務員の評議会等々があった。このような種々
   雑多な集団の中にそれぞれ評議会がつくられた結果、多かれ少なかれ偶然的であ
   った近接関係は、一つの政治制度に変わった。
    この自発的な発展の中でもっとも驚くべき局面は、この二つの例において、ロ
   シアの場合は数週間、ハンガリーの場合は数日もするとこれらのいちじるしく雑
   多な独立した機関が、地域的・地方的性格の上級評議会を形成しつつ、協力と統
   合の過程を促進しはじめ、ついにはこれらの地域的・地方的性格の上級評議会か
   ら全国を代表する会議の代議員を選挙するまでになったということである。
    北アメリカの植民地史における初期の契約や協合や同盟の場合と同じように、
   ここでも連邦の原理、すなわち別々の単位のあいだの連盟と同盟の原理が、活動
   それ自身の基本的条件から生まれたのであって、広い領土における共和政体の可
   能性にかんする理論的考察によって影響を受けたのでもなく、共通の敵の脅威を
   うけて結集したのでもないことがわかる。共通の目的は新しい政治体を創設する
   ことであり、新しいタイプの共和政体をつくることであった。(中略)いいかえ
   れば、評議会は、(基礎評議会や地方評議会の)活動し、意見を形成する能力の
   保持に気を配り、権力の可分性と、そのもっとも重要な帰結である、統治権力の
   必要不可欠な分散を発見せざるをえなかったのである。」
 最後の部分はわかりにくい書き方になっていますが、要するに、全国的な組織になっ
ても、もともとの分権の原理が維持されて、各部分が自由な活動を続けていたというこ
とを言っています。
 他には、どういうことを言っているでしょうか。
 最初の部分で言っているのは、単位となる評議会の発生のし方ですね。また、ハンガ
リーの場合、多様な集団の評議会があったことも紹介しています。中段では、それらが
自然に結合して、地域・地方・全国の評議会が形成されていったこと、および、各レベ
ルの評議会から上のレベルの評議員が選出されていったことを言っています。さらに、
その結合のし方が連合体の原理によるものであったこと、そのために、分権と自治の原
理が維持されていく性質のものであったことを述べています。
 もう1つ、ここには含まれていませんが、評議会は行政に関する機能も併せ持つもの
でした。これは、評議会の原初形態と言えるコミューンの場合を想起してもらえば、分
かりやすいと思います。例えば、パリ・コミューンはそれが存続した期間中、パリ市内
の秩序と行政活動、生活基盤を維持する役割も果たしていました。
 歴史的な「評議会」は以上のようなものですが、ここから評議会制の政体の特徴を抽
出すると、以下のようなことがあげられると思います。
  1) 職場や近隣地域の評議会から始まって、それらが結合した地方評議会、さらに
    地方評議会が結合した全国評議会へと、ピラミッド型に組み上げられていく政
    体であること。
  2) 中央集権ではなく、徹底した分権と自治の原理に立つ政体であること。
  3) 評議員の選出方法は、あるレベルの各評議会から代表が選ばれ、その上の評議
    会を形成するという形をとること。
  4) 政党の関与がない政治と選挙になること。
  5) 評議員たちは議決機関での活動と同時に、行政機関での活動もすること。
  6) 中央政府のメンバーは、全国の評議会において、その執行部として選ばれるこ
    と。

6. 評議会制の取り入れ方
 こういう特徴を持つ評議会制は、政党政治を脱却しつつ、民主政治の質を大きく変え
ていくために有効な手段であると考えたので、部分的に取り入れることにしました。そ
れにより、生活者市民のための政治、寡頭制的ではない政治を実現しやすくなります。
また、新たな政体がよりよき社会・経済をめざすものであることから、社会派的な市民
たちが立候補・当選することが増えるはずであり、評議会制の議員選出方法と相まって、
かれらのヘゲモニー(指導的な立場。主導権)が確立しやすくなります。
 しかし、新しい政体を永続する平時の機関として機能するものにするためには、無関
心層とか保守的な勢力とかさまざまな人々も包み込み、受け入れるような政治制度にす
る必要があります。そのためには、評議会制の選出方式だけではなく、要所、要所に普
通選挙制度(全住民が有権者)も入れていくべきだと考えました。
  1つ目は、政体の基礎となる市評議会を普通選挙方式で選ぶことです。
  2つ目は、地方評議員への立候補の資格を拡大することです。
  3つ目は、中央政府メンバーの選び方を評議会制と普通選挙制の両面を合わせ持つ
      ものにすることです。具体的には第2部の8章と第3部の3章を読んでく
      ださい。
 3つ目の改変を加えたもう1つの理由は、有権者総体の意思によって政権交代がなされ
るのは、民主政治にとって必要不可欠なことであると思ったからです。政党がなくなる
中でどのように政権交代を可能にするのかが問題の焦点になりますが、これについての
適切な答を見つけられたと思っています。
   
7.参加民主主義的な仕組みを加えることについて
  有権者の意思を政治に反映させる方法は、選挙だけではありません。デモ・集会、
署名活動、住民投票、タウン・ミーティングなどの従来からある方法に加えて、90年代
以降に欧米で開発されて世界へと広まった「討議デモクラシー」の諸手法があります。
私は、地区・市・地方・中央の各政体において参加民主主義的な制度を用いることによ
って、有権者の意思を政治に反映させやすい政体にしようと考えました。
  1) 地区および市の政体について:①電子システムを利用した「21世紀型タウン・
    ミーティング」、②住民投票の2つを制度化します。また、市民主導の「まち
    づくり」プロジェクトも政治参加の1つの回路として確立していきます。
  2) 地方の政体について:(道州制に似た「地方制」を導入した上で)①「討議型
    世論調査」、②テーマ型の「21世紀型タウン・ミーティング」、③住民投票の
    3つを制度化します。また、中央の政治について市民同士が議論する公共空間
    としての役割を重視し、公式の市民会議を数多く開催します。
  3) 中央の政体について:政治の焦点となる各種テーマについて、全地方で「討議
    型世論調査」を行い、中央政治への反映を求めます。もし、中央政府の反映の
    し方に異議がある場合は、全地方での住民投票を請求できるようにして、全住民
    投票で決定される制度にします。
  なお、「 」内に入れた各種の手法については、本文原稿をお読みください。


8.4-②ローカル・デモクラシーの重視と4-④既存デモクラシーの長所の継承
 1)4-②ローカル・デモクラシー:身近な所から民主政治が行われるようにします。
    そのために、市や郡を細分化した「地区」を単位として、直接民主主義の方法も
   取り入れた近隣自治を制度化します。
 2)政体の全体構造を徹底した分権的性格のものにします。自分たちのことは自分たち
   で決めるという原理が貫かれるようにします。
 3)中央の政治では、権力分立の原理を継承し、その仕組みを強化します。
 4)有権者の意思を反映した政権交代が行われるようにします。
 5)立憲主義を継承し、憲法裁判所を設置して、その仕組みを強化します。

[2]問2と問3への答
  私は「主権の政治」に代えて、オリジナルの「公共性の政治」という政治概念を提唱
します。そして、公共性の政治を実行していく観点からは、「よりよき社会・経済にする
こと」は政治の当然の責務であると論じます。
 したがって、そういう政治が行われやすくなる政体にする必要がありますが、その仕組
みを構想するに先立って、各領域にどういう問題があるか、その解決に求められる基本的
方向性や基本政策はどういうものかを論じるべきだと考えました。
 それで、例として、社会領域ではエスニシティ差別の問題、経済領域では格差・貧困の
問題、企業への規制、金融領域の改革などを取り上げ、具体的な基本政策を示しました。
 その上で、持続的に諸問題に取り組んでいくための特別の機関として以下のものを提唱
しました。
  1) 地方〈社会〉評議会と中央〈社会〉評議会
  2) 地方〈経済〉評議会と中央〈経済〉評議会
 〈社会〉評議会の目的は、現代の日本社会にある各種の差別問題を1つ1つ取り上げて、
問題解決のための政策を作り、実行を促進していくことです。そのために、当事者集団や
市民団体からも評議員を選び、専門家および一般市民から選ばれる評議員とで構成される
〈社会〉評議会を地方と中央に作ります。
 〈経済〉評議会の目的は、現代の資本主義と各種の企業が生み出すさまざまな問題を取
り上げて、問題解決のための政策を作り、その実行を促進していくことです。そのために
経営者や労働者からも評議員を選び、専門家および一般評議員から選ばれる評議員とで構
成される〈経済〉評議会を地方と中央に作ります。
 単に「会議」とせず、「評議会」という名称にしたのは、地方評議会・中央評議会と同
等の独立した組織であることを示すためです。同じテーマについて、〈社会〉(または経
済)評議会とメインの評議会の意見が対立した時は協議すべきであり、協議によっても解
決しない時は、前者が全住民投票の実施を請求できます。
そして、全地方で住民投票が行われ、その結果で最終決定がなされます。
 詳細は、第2部の6章と7章、第3部の2章と3章をお読みください。

[3]問4への答=国家観念、「主権の政治」概念の消滅について
 第1部で論じたとおり、自由民主主義政体の問題点は、国民国家および「主権の政治」
の問題点とつながっています。したがって、新たな政体を確立するためには、これらの観
念・概念を廃棄していく必要があります。
 そのためにどうするかは、第2部5章で論じました。そこで強調したのは、観念の領域
だけではなく、実体の領域での変化も伴わなければ、消滅を実現することはできないとい
うことでした。例えば、国家観念の消滅のためには、新たな政体を実現し、その下で公共
性の政治と分権・自治を実行していくこと、同時に外交面では戦争の放棄・非武装中立を
現実のものにしていくことによる実体面の変化が必要です。こういう思想と構想を展開し
ました。
 第2部の文章展開では、問4の答が最初に述べられ、次に問1の答が始まり、途中で問
2・問3の答が入り、再び問1の解答の後半部分が述べられることになります。各部分で
思想も構想も述べていくので、長くなりますが、まとめて言えば以上のようなことです。
 6月に出版される著作の文章を読んでくれた皆さんのご意見・ご感想が聞きたいです。     

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